名古屋高等裁判所 昭和45年(行コ)5号 判決 1972年3月28日
控訴人 中央企業株式会社
被控訴人 名古屋千種税務署長
訴訟代理人 服部勝彦 ほか四名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の昭和三五年四月一日から同三六年三月三一日までの事業年度の法人税について、同四一年五月三〇日付でなした一、総所得額を六五九万六、四四七円(但し同四二年四月三日名古屋国税局長の裁決により一部取消された後の金額)とする再更生部分、二、重加算税一〇五万七、五〇〇円(但し、前記裁決により一部取消された後の金額)の賦課決定処分、三、青色申告の承認取消処分はいずれもこれを取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述および証拠の提出、援用、認否は、左記のとおり附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(但し、原判決七枚目表八行目に「第六項記載」とあるのを「第七項記載」に、同一〇行目、同枚目裏四行目、七行目および八行目にそれぞれ「第七項」とあるのをいずれも「第八項」に、同八枚目裏八行目に「同日」とあるのを「同月三〇日」に、同一〇枚目裏一〇行目に「事実年度」とあるのを「事業年度」に、同一三枚目裏八行目に「取消価格」とあるのを「取得価格」に各訂正する)、
控訴代理人の陳述
一、本件更生処分は実質的に二重課税であつて違法である。
すなわち、控訴会社のもと代表取締役であつた市川昌二は、昭和三〇年頃から事実上の経営者として数多くの会社を設立し、昭和四二年頃には市川の個人会社と目すべきものは控訴会社のほかに新名産業株式会杜(以下新名産業と称する)等八社を数えるに至つたが、それらの会社は必ずしもその経理を正確に整理せず又それらの会社相互間の取引も錯綜を極めていたので、昭和四二年初頃新名産業を所轄する熱田税務署が右市川の経営する会社全部についてその所得の特別調査をした際も各会社別の損益計算法による所得計算法による所得計算が不可能であつた。そこで、右税務署関係官は市川と話し合つた結果これを次のとおり処理することを約した。
(一) 名義のいかんを問わず市川の経営する前記各会社の資産、負債一切は同人に帰属するものとみなし、財産増減法によりその所得税を計算する。
(二) 財産計算法の計算の始期を昭和三七年一月、終期を同四一年一二月とする。
(三) 右の計算により算出された所得金額を新名産業の昭和三八年一〇月(同杜設立の時)から同四一年九月までの各事業年度に分割して各事業年度の法人税を賦課する。
(四) 新名産業は右賦課に対して不服を申立てず、その税額を誠実に納付し、市川は右納税について保証をする。
(五) 市川が前記(一)の資産、負債一切を開示して課税に協力すれば、新名産業を除くその余の市川の個人会杜について損益計算法による所得調査をしてこれに基づく課税はしない。但し市川が右開示を怠つた資産が発見されたときはこの限りでない。
市川は右約旨に基づき関係各会杜の資産等一切を開示し、熱田税務署はこれらを検討して調査した結果(控訴会社が本件更正処分に対し審査請求をなし審理中であつたことも調査していた)、同署長は昭和四二年六月二四日付をもつて新名産業の昭和三八年一〇月一日から同四一年九月三〇日までの事業年度分の法人税について、(イ)決定による増差所得額金四、一〇三万八、七五二円、(ロ)決定による増差法人税額金一、五六四万五、三五〇円、重加算税額金五四三万八、九〇〇円の課税処分をした。右課税については、本件課税処分にかかる控訴会杜の納付すべき額が財産計算法における負債増加額として考慮されていないが、市川は当然本件課税処分が後に減額訂正されるものと思い、前記約旨のとおり新名産業に対する右課税について不服申立をなさず納税保証をしたうえ分割納付によりこれを完納した。ところが本件課税処分については右の減額訂正がなされていないのであるから、以上の経緯に照らし、本件課税処分は二重課税となることが明らかであり、取消を免れないものである。
二、本件取消処分の通知書には法定の理由が附記されておらず違法である。
そもそも、現代法治国家における行政処分は常に法令上の根拠を有しかつ適法な理由を具備したものでなければならないことは言うを俟たないところである。行政庁は、具体的事実を認定し、それに法令を適用すればその具体的事実がその法令の定める要件を充足すると判断した場合においてその法令の定める効果の発生を目的とする行政処分をすることができるのであり、その事実の認定と法令の適用に誤りのない場合、初めてその処分は適法な理由を具備したものとなるのである。法人税法第一二七条第二項は青色申告の承認取消の通知書には「その取消の処分の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない」と規定しているが、ここに附記しなければならないとされているものも、右の意味において青色申告の承認取消の完全な理由、すなわちこれにつき認定された事実とその適用された法令を附記すべきことを定めたものと解さねばならない。このことは、同条項の文理からいつても当然である。従つて、右通知書の理由附記は承認取消処分の基因となつた事実がどの条項に該当するかのいわゆる該当条項を記載するのみでは足らず、更に取消の基因となつた具体的事実をも明らかにすべきである。
又、既に最高裁判所は「一般に、法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであるから、その理由は処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とすると解するのが相当である」旨判示しているが(同裁判所昭和三八年五月三一日判決同裁判所民事判例集一七巻四号六一七頁参照)、この趣旨は青色申告の承認取消の通知書における理由附記についても異なるところがない。そうすると、右理由附記は、申告者がその処分の理由を推測し得たか否かにかかわらず、取消の具体的根拠が通知書の記載自体によつて明らかにされていたければならないことは当然である。
更に、法人税法第一二七条によれば、青色申告の承認の取消は同条第一項各号に該当する事実があれば常に必ずなされるわけではなく、右の事実があつても帳簿の記載が全体として真実性、誠実性を失つたとは認められない場合、或は適切な補正を加える等によつてその真実性、誠実性を回復することができると認められるようた場合には承認を取消されないこともあるのである。従つて、申告者は自己に対してなされた承認取消が右の裁量を誤り違法になされたものであるかどうかを争う余地が存するのであつて、そのためには、通知書に取消の基因となつた具体的事実が明確に示されていることが要請されるのである。
三、以上の次第で本件更正処分および本件取消処分は違法であるからこれが取消を求めるものである。
被控訴代理人の陳述
一、本件更正処分が二重課税であるとする控訴人の主張は否認する。本件更正処分は二重課税ではない。
本件更正処分は控訴人の昭和三五年四月一日から同三六年三月三一日までの事業年度における法人税にかかるものであり、控訴人が主張する熱田税務署長が昭和四二年六月二四日付でなした新名産業に対する一課税処分は、新名産業の昭和三八年一〇月一一日ないし同三九年九月三〇日、同年一〇月一日ないし同四〇年九月三〇日、同年一〇月一日ないし同四一年六月四日および清算中の同年六月五日ないし同年九月三〇日までの各事業年度における法人税にかかるものであつて、課税期間を異にする控訴人および新名産業のそれぞれに対する法人税にかかるものであるから、右の両者は形式的にも実質的にも二重課税の問題を生ずる余地があり得ない。このことは新名産業が本件更正処分にかかる課税期間の末日たる昭和三六年三月三一日から二年余りを経過した同三八年一〇月一一日に設立されていることからみても明らかなところである。
仮に、本件更正処分にかかる所得が更に新名産業の所得として二重に課税さされたものとすれば、それは新名産業に対する所得認定に誤りがあることとたるのであつて、右のような新名産業に対する不当な所得認定を理由に適正な本件更正処分の取消を求め得ないことは当然である。
二、本件取消処分にはその理由附記について何らの違法もない。
そもそも、行政庁の行う行政処分がその実体的要件を具備すべきことは当然であるが、これに附記すべき理由は手続的要件の問題であつて、その要否ないし程度は別に決定されるべき性質のものである。このことは、法人税法が青色申告書にかかる更正処分の通知書にその更正の理由を附記しなければならないとしているのに、白色申告法人に対する更正決定処分、過少申告加算税や重加算税の賦課処分等については何らの理由附記を要しないとしていることから判ても明らかである。そして、控訴人のあげている最高裁判所判決も右の理由附記について「どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由附記を命じた各法律の規定の趣旨、目的に照らしてこれを決定すべきである」旨を判示しているのである。
ところで、法人税法は青色申告承認取消処分について同法第一二七条に規定し、同条はその実体的要件を第一項第一号から第四号までに、又その手続的要件を第二項にそれぞれ規定し、これによればその理由附記に関し「その書面には、その取消し処分の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない」としているのに対し、青色申告書にかかる更正処分については、同法第一三〇条がその実体的要件を第一項に、その手続的要件を第二項にそれぞれ規定し、その理由附記に関し「更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない」として、特にその規定の表現を変えているのであるが、このことは右各法条の立法の経過および旧法人税法の規定との対比から理解されるところである。そして、これらの法条をその文理に従がい素直に解すれば、同法第一二七条第二項の理由附記は該当条項の附記で足りるものと解するのが相当であり、それ以上に控訴人主張のように取消処分の基因となつた具体的事実までも附記しなければならないものと解する合理的理由は見出し得ない。特にそれが手続規定である以上特段の理由がない限り文理解釈をなすべきが当然であることを留意すべきである。右条項を取消の基因となつた事実とそれがどの条項に該当するから記載すべきであることを定めたものと読みとるためには、「取消の理由を附記しなければならない」又は「取消の基因となつた事実及びその該当条項を附記しなければならない」などと規定されているべきである。
右のように解することは、青色申告承認取消処分の性質を青色申告書にかかる更正処分のそれとの対比において検討してみても当然の帰結である。すなわち、
青色申告制度は、戦後税制の民主化にともない自主申告納税方式が大幅に採用されたが、この申告納税が円滑、公正に実施されるには、各納税義務者がその取引関係を正確に記帳した帳簿を備え、これによつて所得が過誤なく把握される体制が整備される必要があるので、このような記帳の慣行を普及させるために設けられたものである。従つて、これが適正に行われるためには帳簿に信頼性のあることが最も肝要であり、これを欠除する限り青色申告によつては公正な納税を実現することができないものとなるのである。
ところで、青色申告書にかかる更正処分は、税務署長が納税者である法人から提出された納税申告書に記載された課税標準もしくは欠損金額または法人税額の計算が国税に関する法律規定に従つていなかつたとき、その他当該課税標準等がその調査したところと異なるときに、その調査により当該申告書にかかる課税標準等を更正するものである。すなわち、その更正は直接に当該法人の課税標準等という主として数額にかかわるものであり、税務署長が当該法人において誠実に記帳したその信頼性ある帳簿書類に即して調査した結果、金額と科目の点に誤りを発見した場合になされるものであるから、当該法人の右帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して更正の具体的根拠を通知しなければ、当該法人としては更正金額が何故に生来したかを知る由もないこととなるのである。従つて、更正の理由附記としては、いかなる勘定課目に幾何の脱漏があり、その金額はいかなる根拠にもとずくものであるかが、その記載自体から納税者が知りうるほどに明示されねばならないこととなるのである。
ところが青色申告の承認取消はそのようなものではなく、帳簿書類の備え付けと記帳が信頼関係を裏切るが如き法人税法第一二七条第一項各号所定の事由に該当するに至つたそのこと自体を確認し、かくてその承認を取消すものであつて、それは個々の具体的数額が直接問題となるわけではないのである。すなわち、元来青色申告の承認は、当該法人の事業年度開始の日の前日までに所轄税務署長に法定の事項を記載した申請書を提出することにより、普通は拒絶されることなく得られる建前になつているのであつて、税務署長は右申請が同法第一二三条の却下要件に該当しない限りこれを承認しなければならないし、また、当該事業年度終了の日までに右申請の承認または却下がなかつたときは右申請の承認があつたものとみなされるのであるが、青色申告法人としての特典は右承認がなされた時点において直ちに享受できるものではなく、それは、この法人が所定の帳簿書類を備え、その当該事業年度を通じ所得の基因となる取引事実のすべてをもれなく、しかも複式簿記の原則に従がい組織的且つ継続的にまた整然且つ明瞭に記録し、その記録したところに基づき決算整理を行ない貸借対照表及び損益計算書を作成し、これに基づいた確定申告をしてはじめて右特典を享受できるにすぎないのである。右のように青色申告の承認はこれを申請すればたやすく得られるわけであるが、しかし、全事業年度を通じ所定の帳簿書類を完備し誠実にこれが記帳を続けそれに基づく正しい会計処理と所属計算をするのでなければ、この帳簿書類に即して課税標準等を算定することはもはや期待できないのであるから、そのような場合には、青色申告法人としての特典はもちろん、青色申告法人としての承認を取消されてもやむを得ないものといわねばならないのであり、従つて、青色申告承認取消処分なるものは、かかる誠実な信頼性のある帳簿書類の完備と記帳が行なわれていないという場合に、そのことを確認する意味において当該承認を取消すものに外ならない。それ故、この処分は一旦与えた特典を将来にわたつて剥奪するものでもなければ制裁的機能を有するものでもないのである。このように青色申告承認の取消は誠実且つ信頼性のある帳簿書類を完備且つ記録していない納税者に対し、その帳簿書類の信頼性と誠実性の欠除を理由にこれが承認を取消さんとするものであるから、右取消の理由附記としては、その信頼性、誠実性の欠除を示す該当条項を附記すれば足りるものであつて、それ以上に個々の科目や数額をその帳簿書類に直接関連させながら逐一こくめいに摘示しなければならない必要性は全くないのである。けだし、帳簿書類の信頼性を欠除する具体的事実は広範に及ぶものであつて、これを網羅して詳細に摘示することは事実上困難であり、その結果税務調査が理由附記だけのために広範にして困難な調査が強いられるものとすれば、租税の本質的要請である最低徴税費の原則ないし便宜の原則にもとる結果を招来するのみならず、帳簿書類が不完全であればある程これに対する処分が困難となり、正しく申告した納税者の租税負担が相対的に過重となつて、租税の公平の理念に反することとなるからである。
右のように青色申告承認取消の附記理由は該当条号の附記をもつて足りるものとしても、処分庁の判断の慎重合理性を担保してその恣意を抑制すると共に納税者の不服申立の便宜をそこなうものではない。すなわち、前記のとおり法人税法は青色申告承認取消の事由を四つの類型に法定化し、これを独立した取消事由として同法第一二七条第一項第一号ないし第四号に明文化しているのであつて、これらの各取消事由は、近代的帳簿組織を備えた複式簿記の原則に従つて帳簿書類を整理してゆくに必要な会計処理の能力と要員組織を備えている一般の青色申告法人にとつては、まごうことなくその各号所定の取消事由がいかなる意味内容を当該法人の帳簿書類の整備記帳との対応の関係において有するものであるかを充充分に認識しうるように明確化されているのであり、又実務の通例として、当該法人が何ら関知しないところに卒然として承認取消の通知が届けられるということは全くなく、殆んどの場合承認取消の処分に先立つて税務調査が先行し、税務署の担当係官が必ずこれらの当該法入の帳簿書類のすべてについて調査するわけであり、これにはもちろん当該法人の経理担当者が立会い必要に応じて説明しまた質問をうけ弁明する機会が与えられているから、通常調査の全過程を通じていかなる会計処理が問題であるかが必ず論議の対象となり、それに関連しどの帳簿書類のどの項目と数額についてその記載の不備、不正、脱漏、過大計上、過少評価等が論議されているのである。そして、税務署長は、これらの税務調査の一般実情をふまえた上で青色申告承認取消通知が発するものであるから、そこに記載されている取消事由の該当条号をみれば、税務署長がいかなる判定にもとずき青色申告承認の取消をなすに至つたものであるかを容易に了知することができるのである。又、青色申告承認の取消がなされるときはそれと同時に更正処分がなされるのが通例である。そして、右更正処分は、全くの推計課税の方式だけで所得計算を行ないなされることもあるが、多くの場合は、当該法人の帳簿書類を参考にしながら実額計算方式により所得計算が行われその上でなされているのである。従つて、この更正通知書と承認取消通知書とを対比しながら、かつ税務調査の全過程を総合勘案するならば、いかなる取消事由に該当して青色申告承認が取消されたかを了知することはいよいよ容易となるのである。そうすると、納税者は承認取消に不服である場合その不服申立の理由を検討するについて少しも不便はないわけであり、従つて、青色申告承認取消の附記理由を該当条号の附記だけで足りるとしても、これにより少しも納税者の不服申立の便宜をそこのうことはないのである。
三、以上の次第で控訴人の主張はすべて理由がない。
証拠関係<省略>
理由
当裁判所の審理判断によつても控訴人の本訴請求は失当であると認められるが、その理由は左記のとおり附加するほか、原判決がその理由中に説示しているところと同一(但し、原判決一六枚目表七行目の「同人」とあるのを「右安達」と同一〇行目の「本人家族共」とあるのを「居住者」と、同枚目裏四行目の「同人」とあるのを「安達健」と、同枚目裏末行の「受送達者」とあるのを「受送達者、その使用人その他従業者又は同居の者で書類の受領について相当のわきまえのある者等」と、同一七枚目裏四行目の「受送達者」とあるのを「受送達者等」と各訂正する。)であるから、ここにこれを引用する。
一、当審における控訴人の金立証によつても前(原判決)認定を覆して控訴人の主張を認めるに足りない。
二、控訴人は「本件更正処分は実質的に二重課税であつて違法である」旨主張するけれども、控訴人の右主張事実はこれを認めるに足りる証拠がない。もつとも、当審における証人市川昌二(第一、二回)は、本件更正処分の基礎となつている所得は新名産業の所得としても把握されてこれに課税されているから二重加税となる旨供述しているが、前者の所得がどのようにして後者の所得に把握されたか明らかでないので右供述は採用できず、仮に右供述のようであるとすれば、それは新名産業に対する課税が不当なものとなるのであるから、その是正を求めればよいのであつて、右事由をもつて、本件更正処分が違法であるとしてこれが取消を求めることはできないものというべきである。従つて、控訴人の右主張は理由がない。
三、一般に法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであるから、その記載を欠くにおいては処分自体の取消を免かれないものといわなければならないが、これにどの程度の理由を記載すべきかは、処分の性質と理由附記を命じた各法律の規定の趣旨、目的に照らしてこれを決定すべきものであると解するを相当とする(最高裁判所昭和三八年五月三一日判決、同裁判所民事判例集第一七巻第四号六二〇頁参照)ところ、法人税法第一二七条は、青色申告の承認取消についてその実体的要件を同条第一項第一号ないし第四号に規定し、又その手続的要件を同条第二項に規定していて、これによれば、右取消の理由附記は、その通知書に「その取消し処分の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない」とされていること、又元来青色申告の承認は、法人がその事業年度開始の日の前日までに所轄税務署長に法定の事項を記載した申請書を掲出すれば、税務署長はこれが却下要件に該当する事由のない限りこれを承認しなければならないものであり(同法第一二二条ないし一二四条)、また当該事業年度終了の日までに右申請の承認または却下がなかつたときは右申請の承認があつたものと看做されるのであるが(同法第一二五条)、右承認による特典は右承認がなされた時点において直ちに享受できるものではなく、当該法人が所定の帳簿書類を備えその当該事業年度を通じ所得の基因となる取引事実のすべてを漏れなくしかも複式簿記の原則に従がい組織的且つ継続的にまた整然且つ明瞭に記録し、その記録したところに基づき決算整理を行ない貸借対照表及び損益計算書を作成しこれに基づいた確定申告をしてはじめてこれを受け得るにすぎないものであり、右承認の取消は、帳簿書類の備付けとその記帳が右のような信頼関係を裏切るものとして同法第一二七条第一項各号所定の事由に該当するに至つたことを確認してこれを取消すものであつて、それは一旦与えた特典を将来に亘つて剥奪するものでないことはもとより制裁的機能を有するものでもないことなど、同法第一二七条の規定の文言および青色申告承認取消の性質などとに鑑みれば、右取消の附記理由としては同条第一項各号のいずれに該当するかを附記すれば足りるものと解するを相当とする。そして、被控訴人が本件取消処分の通知書に控訴人の青色申告承認取消の理由として「法人税法第一二七条一項三号に掲げる事由に該当すること」と記載したことは前記(原判決の認定)のとおり当事者間に争いがないから、これによれば、本件取消処分の理由附記としては何ら違法のかどはないものといわねばならない。
四、よつて、原判決は相当であつて、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 布谷憲治 福田健次 豊島利夫)
【参考】昭和四二年(行ウ)第三二号
判 決
原告 中央企業株式会社
被告名古屋千種税務署長右指定代理人島村芳見
ほか四名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、申立
(原告の求める裁判)
被告が、原告の昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日までの事業年度分の法人税について、昭和四一年五月三〇日付でなした。
一、総所得額を六五九万六四四七円(但し昭和四二年四月三日名古屋国税局長の裁決により一部取消された後の金額。)とする再更正処分
二、重加算税一〇五万七、五〇〇円(但し、前記裁決により一部取消された後の金額。)の賦課決定処分
三、青色申告の承認取消処分
はいずれもこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
(被告の求める裁判)
主文同旨の判決。
第二、主張
(請求原因)
一、原告は、主として不動産の売買および賃貸借の仲介並にその委託管理を営む会社であるが、昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日までの事業年度(以下「係争年度」という。)の法人税について、法定の申告期限内である昭和三六年五月三一日に訴外名古屋中税務署長(以下「中税務署長」という。)に対し、欠損金額二九九万六四七九円とした青色申告による確定申告書を提出した。
二、ところが、中税務署長は、昭和三七年三月二六日別表(一)のとおり更正処分をなすと共に、青色申告承認の取消処分をなし、そのころ原告に送達した。
三、そこで、原告は同年四月一〇日、右青色申告承認の取消処分を不服として中税務署長に対し再調査請求をなしたところ、同年七月五日同署長は青色申告承認取消処分を取消し、そのころ原告に送達した。
四、ところで、昭和三九年一月、原告が本店を名古屋市千種区東山元町四丁目五八番地に移転したところ、大蔵省組織規程の改正によつて、右地区は訴外名古屋東税務署長(以下「東税務署長」という。)の所轄する地域となつたが、東税務署長は昭和四一年五月三〇日付で原告の係争年度の法人税について、別表(二)のとおり再更正処分および重加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分」という。)をなすと共に青色申告承認の取消処分(以下「本件取消処分」という。)をなし、同年六月二日に原告に送達した。
五、そこで、原告は、同年六月二四日東税務署長に対し、本件更正処分並びに本件取消処分につき異議申立をしたが、同年九月二二日東税務署長は原告の申立をいずれも棄却す旨の決定をなし、そのころ原告に送達した。
六、そこで、原告は同年一〇月一七日訴外名古屋国税局長に対し、本件更正処分並びに本件取消処分に対する審査請求をなしたところ、昭和四二年四月三日同局長は本件更正処分については別表(三)のとおり一部取消をなし、本件取消処分についてはこれを棄却し、そのころ原告に送達した。
七、その後再び大蔵省組織規程の改正があり、被告が東税務署長の事務を承継した。
八、然るに本件更正処分および本件取消処分には次のような違法があるから取消されるべきである。
(一) 本件更正処分の通知書(以下「本件通知書」という。)は、国税通則法七〇条二項に定める法定申告期間から五年を経過する日(昭和四一年五月三一日までに適法に送達されていないから、本件更正処分は違法である。すなわち、昭和四一年六月二日東税務署所属の職員が本件通知書を持参して原告代表者安達健方を訪れ、同人の妻アヤ子に対し、本件通知書の受領を求めたが、同人が受領を拒絶したところ、右職員は本件通知書を安達方郵便受函に投げ込み立ち去つたものであつて、前記期日までに適法に送達されていない。仮りに送達されているとしても、
(1) 本件通知書は封筒に入つており、右封筒に記載された原告代表者の住所は「千種区東山元町四の五八」と記載されていたが、東税務署所属の職員が本件通知書を現実に差置送達した場所は同区本山町一丁目八番地である。従つて、右差置送達は同法一二条に定める「送達すべき場所」を誤つたもので不適法である。
(2) また、東税務署所属の職員が前記安達アヤ子に対し封筒に入つた本件通知書の領領を申向けた際においても、同女は右封書の内容を知らされず、また封書の宛先と異なる場所でこれを受領すべき理由の説明を受けていないのであるから、同人には右封書の受取を拒むにつき「正当の理由」があつたというべきである。それにも拘らずなされた差置送達は違法である。
(二) 本件取消処分の通知書には法定の理由付記が欠けているから本件取消処分は取消されるべきである。すなわち、右通知書には取消の理由として「法人税法一二七条一項三号に掲げる事由に該当すること」と記載されている。ところで同条二項によれば取消通知書には「その取消しの処分の基因となつた事実が同条一項各号のいずれに該当するかを付記しなければならない」とされており、この趣旨は税務署長が青色申告承認取消の基因たる事実を特定、明記した書面自体をもつて、納税義務者にその事実を知らせることにより、取消の妥当、公正を担保することにある。従つて、青色申告承認取消の基因たる事実を特定、明記せず、単に該当の条項を記載したにすぎない前記通知書は法の要求を充たさないものであり、従つて本件取消処分は違法である。
(三) 前項に述べた如く本件取消処分が取消される結果、原告に対する更正等は法人税法一三〇条によつて更正の理由を付記した通知書によつてなされるべきところ、本件更正処分の通知書には何ら理由の記載がない。従つて本件更正処分は違法である。
(四) 本件更正処分は、その内容に誤りがある。すなわち、原告は昭和三六年一月七日別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を訴外岡地中道に代金総額四、二九七万六、〇〇〇円をもつて売却した。右土地は、もと訴外大和信商株式会社(以下単に「大和信商」という。)の所有(ただし、土地の登記名義人は斎場彦太郎。)であつたが、昭和三五年二月一〇日訴外平和不動株式会社(以下単に「平和不動」という。)が代金総額三、〇八〇万円(但し代金三、〇〇〇万円、手数料八〇万円)で買受け、更に同年四月一二日同社より原告が代金総額三、七九二万円で買受けた(ただし、登記簿上は、斎場から原告会社へ、原告会杜から岡地へ順次移転登記がなされ平和不動の買受および譲渡は省略されている。)。従つて、本件土地取得額は三、七九二万円とされるべきところ、被告は登記簿上の記載に従つて原告が直接斎場彦太郎より三、〇八〇万円で買受けたと認定し、その間売買差益を七一二万円過大に算定し、本件更正処分をなしたものである。これによつて、本件係争年度の原告会社の所得は、五二万三、五五三円の欠損となるから、本件処分は違法である。
(被告の答弁および主張)
一、請求原因第一項ないし第六項記載の事実(但し第四項の送達の日は除く。)はすべて認める。
二、第七項(一)記載の事実のうち、本件通知書の名宛人の住所が「名古屋市千種区東山元町四の五八」と記載されていたこと、東税務署長所属の職員が本件通知書を差置送達した場所が同市同区本山町一丁目八番地であつたことは認めるが、その余の事実は争う。
三、第七項(二)記載の事実のうち、本件取消処分の通知書に原告主張の如き記載があることは認めるが、その余の事実は争う。
四、第七項(三)記載の事実は争う。
五、第七項(四)記載の事実のうち、原告が、その主張の日に本件土地を訴外岡地中道にその主張の額で売却したことは認めるが、その余の事実は争う。
六、本件通知書は、国税通則法七〇条二項に定める更正をなし得る最終期限である昭和四一年五月三一日までに原告に送達されたから、本件更正処分に違法はない。すなわち、原告会社は本店所在地を名古屋市千種区東山元町四丁目五八番地として商業登記をなしていたが、既に昭和三九年一月三一日には解散し、右本店所在地には代表者安達健は居住していなかつた。しかし、偶々、他の税務署長宛に同会社より「名古屋市北区志賀町四丁目六〇番地安達健」なる人物がその清算人として届出られていたため、被告は、本件通知書送達にあたつては右安達を送達を受けるべき者と指定し、同人の住所地に本件通知書を送達することとした。そこで昭和四一年五月三〇日東税務署能登国税調査官および永田徴収官が本件通知書を持参し、右安達の前記住所に赴いたところ、同人は転居していたので、直ちに同人の転居先について調査した結果、同人は同月一〇日に名古屋市千種区本山町一丁目八番地に転出していることが判明した。そこで右能登調査官および永田徴収官は右住所に住民登録がなされていることを確認して同所に赴いたところ、本人家族共不在であつたため、表札並びに隣人によつて、右安達が同所に居住していることを確認したうえ、同日午前一一時一五分本件通知書を同人宅の郵便受函に投函したのである。そして、翌三一日午前八時三五分、右能登調査官において再び原告代表宅を訪れたところ、同人の妻が在宅したので、同人に対し前日本件通知書を送達した理由を説明し、念のため受領書の交付を求めたが拒絶されたので、同調査官は本件通知書が他の郵便物と一緒に保管されていることを確認したうえ、本件通知書を安達健に渡してもらいたい旨申述べて同人宅を辞去したのである。ところで、一般に行政上の書類の送達には右書類の内容を了知しうる状態におけば足るものと解されるところ、本件通知書は原告代表者宅の郵便受函への投函によつて原告会社の了知しうべき状態におかれたものであるから、本件通知書は昭和四一年五月三〇日原告に送達されたのである。
原告は本件通知書の送達すべき場所を誤つた不適法なものと主張するが、国税通則法一二条一項本文によれば税務署長が発する書類はその送達をうくべき者の住所或いは居所に送達すれば足りるのであつて、書類上送達を受くべき者の住所として記載された場所がたまたま同人の現住所と異つていても右送達が不適法となる訳ではない。また、国税通則法一二条五項によれば、「書類の送達を受くべき者に出合わず、その同居者において正当の理由なく同書類の受領を拒否された場合はこれをその場所(送達すべき場所)に差置くことができる」旨規定している。本件通知書は前述の如く、原告代表者本人並びに家族不在のため同人宅の郵便受函に投函して差置送達をなし、翌日同人宅に前記能登調査官が臨宅して受領の確認を行つたもので、本件通知書の送達はこの点においても違法はない。
七、本件取消処分は、理由付記について何ら違法はない。すなわち、青色申告制度は、法律の要求する誠実かつ信頼性のある記帳をすることを約束した納税義務者が、これに基づき所得を正しく算出して申告納税することを期待すると共に、かかる納税義務者に対しては一定の特典を付与するものであり、青色申告書提出承認の取消しは、この期待を裏切つた納税義務者に対しては、いつたん付与した特典を剥奪すべきものとすることによつて青色申告制度の適正な運用を図ろうとするものである。
ところで、法人税法一二七条一項各号に定められた青色申告書提出承認の取消原因は、納税義務者の備付帳簿の記載自体およびそれに基づく申告に関係する事柄であり、従来の経験に徴し一般に予測され得るような、記帳自体の誠実性信頼性を疑わしめ正確な所得算出を不可能とする事由を概括的に類型化したものである。従つて、その理由付記も、法律が記帳の誠実性、真実性の欠如を予測し得るものとして定めた事由を概括的類型的に示せば足り、実体的な数額もしくは所得の種類等の変更を伴う計算もしくは判断過程があり、かつ、それが次の事実年度の所得計算にも当然に影響を及ぼす青色申告の更正処分におけるが如き具体性ある理由の付記を要しないのである。このことは、青色申告の更生処分の理由付記に関する同法一三〇条二項の規定と、青色申告書提出承認取消の理由付記に関する同法一二七条二項後段と、その表現が異つていることからも明らかである。従つて、同条項の解釈としては承認取消の基因となつた事実を具体的に記載することまでは必要でなく、同条項が規定しているように「その取消の処分の基因となつた事実が同条一項各号のいずれに該当するか」を付記すれば足りると解すべきである。
八、本件更正処分の内容には何らの違法も存しない。本件土地は、昭和三五年四月一二日に原告が大和信商の仲介により斎場彦太郎より代金総額三、〇八〇万円(うち八〇万円は大和信商に対する手数料)で買受けたものである。このことは次の事実よりするも明らかである。
(一) 本件土地の昭和三五年四月五日付売買契約書には売渡人斎場彦太郎、買受人東洋商事株式会社(以下単に「東洋商事」という。)市川昌二(東洋商事は原告会社の旧商号である。)、立会人大和信商と記載されていること。
(二) 右取引当時の原告代表者市川昌二が、法人税法違反嫌疑事件の参考人として名古屋国税局収税官吏の取調を受けた際、本件土地を原告が斎場彦太郎より契約日を昭和三五年二月一〇日、売渡日同年四月一一日、代金三、〇〇〇万円、手数料八〇万円として取得した旨の上申書を右係官に提出していること。
(三) 原告が、中税務署長に提出した法人税確定申告書その添付書類及び原告備付帳簿等によれば、本件土地を斎場彦太郎より二、五二八万円で取得し、岡地中道に三、〇三三万六、〇〇〇円で売却した旨が記載されており、その結果として売却益四一六万二、七五〇円が総収入金額に計上されていること。
(四) 仮に原告主張の如く平和不動が本件土地を斎場彦太郎から代金総額三、〇八〇万円(うち手数料八〇万円)で取得し、原告に三、七九二万円で譲渡したとすれば、右譲渡に伴う売却益七一二万円が平和不動の利益として同法人の決算書に計上されるべきであるのに、同法人の法人税確定申告書には右利益金は何ら計上されていないこと。
(五) また本件土地の代金支払は次のような経緯でなされたものであり、この事実も被告の右主張を根拠づけるものである。すなわち、昭和三五年二月一〇日、大和信商が自己の預金から五〇〇万円を払戻し、これを原告のため本件土地売買の手付金として斎場彦太郎に立替払いし、翌一一日原告の関連会社たる平和不動(代表者は当時の原告会社代表者たる市川昌二の母市川みねであり、平和不動の実権は市川昌二にある。)が大和信商に五〇〇万円支払つているが、これは原告の依頼によるもので、同年四月五日原告は平和不動に右五〇〇万円を返済した。次いで、同月一一日原告は大和信商に本件土地代金の一部として一、〇〇〇万円を支払い、大和信商は翌日これを売主斎場彦太郎に引渡した。その後、資金不足のため原告は大和信商より昭和三六年四月一一日満期の約束手形で一、五〇〇万円借入れこれにより、残金一、五〇〇万円の決済をした。その際借入金の利息を年一割とし、利息相当分一五〇万円、本件土地の仲介手数料八〇万円を大和信商に支払い、本件土地に抵当権を設定した。原告は、昭和三六年一月七日、本件土地を大和信商を介して岡地中道に四、二九七万六、〇〇〇円で売渡し、手数料九五万円前記借入金と相殺に係る一、五〇〇万円を差引いた残額二、七〇二万六、〇〇〇円を受取つたのである。尚この相殺に伴い返済期日が当初約定の昭和三六年四月一一日より繰上げられたので前記支払利息一五〇万円のうち一五万円が返戻され、差引利息一三五万円は本件更正処分に対する審査裁決によつて費用として認められ、本件更正処分の一部取消がなされたものである。
以上の如く本件土地の取消価格は三、〇八〇万円である。そこで、本件更正処分においては、本件土地の売渡しによる収入漏れとして四、二〇二万六、〇〇〇円(岡地中道に対する売渡金額より仲介手数料九五万円を控除。)を加算し、これに対応する原価として三、〇八〇万円を減算したところ、審査請求に対する裁決において前記支払利息一三五万円の減算が追加認容され、結局別紙原告会杜所有金額計算表のとおり原告会杜の係争年度の所得金額は六五九万四、四七円(別表(三))となつたのである。よつて、本件更正処分には何らの誤りもない。
第三、証拠<省略>
理由
一、請求原因第一項ないし第六項記載の経過(但し本件通知書の送達日を除く。)で、原告主張の如き確定申告、更正処分、青色申告承認取消処分、右取消処分の再調査請求、その取消決定、本件更正処分並びに本件取消処分、これらに対する異議申立、棄却決定、審査請求、本件更正処分の一部取消裁決、本件取消処分の棄却裁決が順次なされたこと、原告がその主張の如き営業を目的とする会社であること、被告が東税務署長の事務を承継したことは当事者間に争いがない。
二、そこで、原告主張の本件処分、本件更正処分、本件取消処分の違法原因につき順次判断する。
(一) 本件通知書の送達について。
本件通知書の宛先が「名古屋市千種区東山元町四の五八」となつていたこと、訴外東税務署長所属の職員が同市同区本山町一丁目八番地の原告代表者宅の郵便受函に本件通知書を投函したことは当事者間に争いがない。
<証拠省略>を総合すれば、原告会社は、既に昭和三九年一月三一日解散していたが、同会社より偶々昭和税務署長宛に、名古屋市北区志賀町四丁目六〇番地在住の安達健が原告会社代表者清算人として届出られていたため、東税務署長は、同人を受送達者として本件通知書を送達することにしたこと、昭和四一年五月三〇日同税務署能登国税調査官および永田徴収官が本件通知書送達のため右志賀町四丁目六〇番地に赴いたが、同人は既に同市千種区本山町一丁目八番地に転居していたので、右両名は右場所に安達の住民登録がされていることを調査したうえ、さらに右場所に赴いたこと、ところが、本人家族共不在であつたので、表札及び隣人からの聴取により右場所所在の住宅に右安達が居住していることを確認して、同日午前一一時一五分、右安達方郵便受函に本件通知書を投函したこと、更に翌三一日能登調査官が送達の事実を確認するため再び右安達方を訪れたところ、同人は又も不在であつたが、その妻アヤ子が在宅したので本件通知書を同宅に送達した理由を説明し、受領書の交付を要求したが、同女は右申出を拒絶したこと、そこで、能登調査官は本件通知書が安達宅に保管されていることを確認しただけで辞去したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証人安達アヤ子の証言は措信せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで、国税通則法一二条五項によれば受送達者が送達すべき場所にいない場合には差置送達をなしうる旨規定されているところ、前記認定の事実によりすれば、本件通知書は昭和四一年五月三〇日原告代表者宅の郵便受函に投函されることによつて、右差置送達がなされたものと認めることができる。
原告は、本件通知書は送達すべき場所を誤つた不適法なものと主張するが、税務署長の発する書類は受送達者の住所或いは居所に送達されれば足る(同法一二条一項本文)ものとされているところ、本件通知書はまさに受送達者たる原告代表者の現住所に送達されたものであるから、たといそれが本件通知書又はその封筒に記載された住所と異つていても、右差置送達を違法ならしめるものではない。
また、原告は、原告代表者の妻安達アヤ子が本件通知書の受領を拒む正当な理由がある旨主張するが、前記認定の如く本件通知書は受送達者不在のため差置送達がなされ、これによつて送達の効果が発生したものであつて、能登調査官が右安達アヤ子に面会し、本件通知書の受領書交付を求めたのは単に事務処理の万全を期するためにすぎず、アヤ子に対し本件通知書を交付しようとしたわけではないから原告の右主張は失当である。
してみれば、本件通知書は同法七〇条二項に定める更正の最終期限である昭和四一年五月一三日前に原告に送達されたものであるから、この点について本件更正処分に違法はない。
(二) 本件取消処分の理由付記について。
本件取消処分の通知書に原告主張の如き記載があることは当事者間に争いがない。
ところで、青色申告書提出承認の取消は、法人税法一二七条一項各号に定められた事由、すなわち、記帳自体の誠実性、信頼性を疑わしめ、正確な所得算出を不可能とする事由の存する場合になされるものであるが、青色申告書に係る更正の場合(同法一三〇条二項)とは異なり、その理由付記も承認取消の基因となつた事実が同法一二七条一項各号のいずれに該当するかを付記すれば足りるのであつて、取消の基因となつた具体的事実を記載することまでは要求されていないものと解するのが相当である。けだし、右一二七条一項各号は承認取消の基因たるべき事実をある程度具体化して規定しているので、取消処分通知書にいちいち具体的事実を摘示しなくとも取消の妥当公正が担保されないことはできないし、また、このように解することが同条二項の文理にも副つているからである。しかして、前記争いのない事実によれば、本件取消処分の通知書には法人税法一二七条一項三号に掲げる事由に該当する旨の記載があるのであるから、本件取消処分はその理由付記について欠けるところはない。
(三) また、原告は、本件取消処分が取消される結果、本件更正処分も同法一三〇条によつて理由を付記した通知書によるべきところ、本件更正処分の通知書には理由の付記がない旨主張するが、本件取消処分には前記のとおり何らの違法もないのであるから、原告の右主張はその前提を欠くもので主張自体失当である。
(四) 本件土地の取得価格の認定について。
原告が、その主張の日に本件土地を訴外岡地中道にその主張の代金で売却したことは当事者間に争いがない。
<証拠省略>を総合すれば、大和信商の仲介により昭和三五年二月一〇日原告会社(当時の商号は東洋商事株式会社。)と本件土地の所有者たる斎場彦太郎との間に本件土地を代金三、〇〇〇万円で売買する商談が成立し、同日大和信商がその手付金として五〇〇万円を自己の預金から払戻し、右斎場彦太郎に原告のため立替払いしたこと、翌一一日平和不動が大和信商に右立替金償還として五〇〇万円支払つたが、平和不動と原告会社とは、前者の代表者市川みねが後者の代表者市川昌二の実母という関係にある関連会社であり、平和不動の右支払いは原告会社の依頼によるものであつたこと、一方、原告会社は、同年四月五日前記立替金五〇〇万円を平和不動に支払い、同日本件土地につき売主斎場彦太郎、買主原告会社、仲介人大和信商、代金二、五二八万円とする売買契約書(乙第八号証)を作成したこと、同月一一日原告会社は大和信商に対し一〇〇〇万円支払い、更に大和信商から昭和三六年四月一一日を満期とする額面一五〇〇万円の約束手形により同額の金員を借入れこれにより代金残額を決済したが、その際大和信商に手数料八〇万円、借入金の利息一五〇万円を支払つたこと、昭和三五年四月一三日本件土地の所有権が同月一二日の売買を原因として斎場から原告(東洋商事株式会社)に移転した旨所有権移転登録がなされていること、昭和三六年一月七日本件土地が大和信商の仲介により原告会社から岡地中道に代金総額四二九七万六、〇〇〇円で売却され、仲介手数料九五万円および前記借入金一、五〇〇万円を差引いた残額を原告会社が受取つたこと、前記手形が満期日以前に決済されたため支払ずみ利息のうち一五万円が大和信商から原告会社に返却されたこと、原告会社が大和信商に支払つた利息一三五万円は本件審査裁決において本件取引の費用と認められ、再更正処分の一部取消がなされたこと、原告会社は係争年度の法人税の確定申告書において土地の売却益を相当額計上しているに反し、平和不動のそれには土地の売却益と認むべきものは全く計上されていないこと、当時の原告会社代表者市川昌二も大和信商に対する法人税法違反けん疑事件の調査において名古屋国税局係官に対し昭和三五年二月一〇日に本件土地を斎場から代金三、〇〇〇万円で買受け、手数料として八〇万円支払つたことを自陳し、かつ、その旨の上申書も提出していること、原告会社は本件更正処分に対する異議申立、審査請求の手続において、本件土地を直接斎場から買受けたのでなく、平和不動から買受けたものであつて、従つて本件土地の売却益が被告主張金額とは異なることは全く主張しておらず、本件訴訟においてはじめてこれを主張したこと、以上の事実が認められ、<証拠省略>他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実関係よりすれば、本件土地は、原告会社が斎場彦太郎より代金総額三〇八〇万円(うち八〇万円は手数料)で買受けたものと認めることができ、別紙原告会社所得金額計算表の内容については右以外の点は原告において争わないのであるから、係争年度の原告の所得が被告主張のとおりとなること計算上明白といわねばならぬ。よつて、本件更正処分の内容には何ら誤りはない。
三、よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 宮本聖司 福富昌昭 将積良子)
目 録
一、名古屋市中区南桑名町五丁目二番
宅地 七一七・九九七平方メートル(二一七坪五合四勺)
一、同所二番の七
宅地 一一九・九四二平方メートル(三六坪八合四勺)
右二筆換地
同市同区栄二丁目七二〇番
宅地 平方メートル(一二六坪四合)
以上
別表<省略>
原告会社所得金額計算表
(一) 原告の申告した欠損金額 二、九九六、四七九件
(二) 加算の部
1 当初更正による加算
(1) 簿外不動産売買収入計上漏れ 一一、五〇〇、〇〇〇円
(2) 不動産賃貸料計上漏れ 三六八、〇〇〇円
(3) 受取利息計上漏れ 四、七八八円
(4) 支払利息過大計上による否認 二六五、九四七円
(5) 給与と認められないもの損金計上否認 二四一、〇七一円
(6) 損金に計上した役員賞与否認 四、〇〇〇円
(7) 加算計 一二、三八三、八三三円
2 再更正による加算
(8) 簿外不動産売買収入漏れ 四二、〇二六、〇〇〇円
(9) 加算計 四二、〇二六、〇〇〇円
3 加算金額合計((7) +(9) ) 五四、四〇九、八三三円
(三) 減算の部
1 当初更正による減算
(1) 簿外で支出した経費認容 五四、一五七円
(2) 簿外不動産売買収入に対応する原価認容 八、四五〇、〇〇〇円
(3) 減算計 八、五〇四、一五七円
2 再更正による減算
(4) 簿外不動産売買収入に対応する原価認容 三〇、八〇〇、〇〇〇円
(5) 法人が計上した不動産売却益(被告が否認したものの一部) 四、一六二、七五〇円
(6) 減算計 三四、九六二、七五〇円
3 審査請求による減算
(7) 簿外で支払つた利息認容 一、三五〇、〇〇〇円
(8) 減算計一、三五〇、〇〇〇円
4 減算金額合計((3) +(6) +(8) ) 四四、八一六、九〇七円
(四)差引係争事業年度の所得金額((二)の3-(三)の4+(一))
六、五九六、四四七円